左右田が田中をちゃんと絶望させてあげる話です。
「もう何も考えなくていいんだぜ」
田中眼蛇夢は絶望していた。 目の前で揺れる鋭利なピンク髪が目障りなのはいつもの事としよう。だけどそれが今も――希望ヶ峰学園を卒業しても尚、自分の前に在ることが不愉快で仕方なかった。
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七海千秋が惨殺された後、学園を卒業した田中が選択した絶望は、孤独だった。 ほとんど動物的に母親を殺し、飼育舎の檻を解き放った瞬間、心の奥底に封じていた寂しさや欲求がずくずくと全身を這っていくのを田中は感じた。 惜しみなく愛情を注いで育て上げてきた動物たちの、悲鳴にも似た鳴き声を一身に受けながら、田中は笑っていた。空になった飼育舎に、自分の正体を見たのだ。
それでも動物たちは田中の傍を離れなかった。 主人が豹変しようとも、その結果どんな結末を迎えようとも、自らの意思で田中の傍に居ることを選択した動物たちを、田中は人殺しの道具として利用した。 絶対的な孤独。そのために動物たちすら利用する愚かな自分。制圧せし氷の覇王は踏み躙られ唾を吐かれ死んだ。
そんな絶望感に酔いしれる田中の前に突然現れたのが、元クラスメイトの左右田和一だった。
◇
「あいにくだが……俺様は貴様の相手をしてやれるほど暇ではないぞ。まだ絶望が足りんのだ」 「はは」
乾いた嘲笑を受けて、田中はギロリと左右田を睨む。